不動産投資のIRR・DSCRとは?純資産で見る判断基準
不動産投資の物件提案を受けたとき、表面利回りや毎月のキャッシュフローだけを見て「この物件は良さそう」と判断していないでしょうか。
もちろん、利回りや手残りは重要です。しかし、それだけで購入を決めるのは危険です。不動産投資では、保有期間中の収支だけでなく、10年後に売却したときの手残りやローン残債まで含めて、最終的に純資産がいくら増えるのかを見る必要があります。
この記事では、不動産投資の購入判断で使いたいIRR・DSCR・10年後の純資産という3つの考え方を整理します。購入判断全体の流れではなく、投資効率と返済余力、そして中長期の純資産増加を確認するための判断基準に絞って解説します。
目先の利回りではなく、投資効率と安全性を数字で確認したい方は、購入前の判断材料として参考にしてください。
アパート投資の購入判断全体の流れは、以下の記事で整理しています。
目次
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不動産投資は利回りだけで判断してはいけない
不動産投資では、表面利回りや目先のキャッシュフローだけで購入判断をするのは危険です。投資として本当に成功しているかは、保有期間全体で純資産がどれだけ増えたかで判断する必要があります。
表面利回りが高くても、将来の売却価格が下がったり、修繕費や空室リスクが大きかったりすれば、最終的な手残りは少なくなる可能性があります。
キャッシュフローが出ていても成功とは限らない
毎月のキャッシュフローが黒字だからといって、その投資が成功しているとは限りません。
たとえば、保有中に毎月手残りが出ていても、10年後に売却したときの価格が大きく下がっていれば、トータルでは思ったほど資産が増えていないことがあります。
キャッシュフローは、賃貸経営を続けるための大切な現金です。しかし、不動産投資の最終的な成果は、保有中の手残りと売却時の手残りを合わせて判断する必要があります。
そのため、購入時点では「毎月いくら残るか」だけでなく、「10年後にいくら残るか」まで確認することが大切です。
10年後の売却価格が投資結果を左右する
不動産投資では、売却時の価格が最終結果に大きく影響します。
保有中にキャッシュフローが積み上がっていても、売却時にローン残債が多く残っていたり、売却価格が想定より低かったりすると、最終的な純資産増加額は小さくなります。
反対に、毎月のキャッシュフローがそこまで大きくなくても、ローン返済が進み、売却時にしっかり手残りが出る物件であれば、トータルでは良い投資になる場合もあります。
つまり、不動産投資は購入時の利回りという点ではなく、保有期間全体の線で見る必要があります。
IRRは投資効率を見るための指標
IRRは、投資した自己資金に対して、保有期間全体でどれくらいのリターンが得られるかを見る指標です。
不動産投資では、毎年のキャッシュフローと売却時の手残りを合わせて考える必要があるため、単年の利回りだけでは投資効率を判断しきれません。そこで使うのがIRRです。
IRRは保有期間全体の本当の利回りを見る指標
IRRは、内部収益率とも呼ばれます。
簡単に言えば、自己資金に対して、その投資が年率でどれくらいの効率で回っているかを見る指標です。保有期間中のキャッシュフローだけでなく、売却時の手残りも含めて計算します。
たとえば、毎月の手残りが大きくても、売却時に大きく損をする物件はIRRが低くなります。反対に、毎月の手残りはそこそこでも、売却時にローン残債との差額がしっかり残る物件は、IRRが高くなることがあります。
つまりIRRは、表面利回りでは見えない投資効率を確認するための指標です。
IRRの目安は自分の投資基準として決めておく
IRRを使うときは、自分なりの合格ラインを決めておくことが重要です。
この記事内の事例では、借入リスクを負う不動産投資であれば、IRR 8%以上を一つの目安にする考え方を紹介しています。これは、投資効率を見るうえでの判断材料になります。
もちろん、IRRの基準は投資家の資金状況、リスク許容度、物件種別、エリアによって変わります。重要なのは、物件ごとに何となく判断するのではなく、あらかじめ自分の基準を決めておくことです。
基準があれば、物件情報を見たときに、検討を進めるべきか、見送るべきかを判断しやすくなります。
自己資金の入れ方でIRRは変わる
IRRは、自己資金の投入額によって変わります。
自己資金を少なくして融資を多く使えば、自己資金に対する投資効率は高く見えやすくなります。ただし、その分返済負担が重くなり、安全性は下がる可能性があります。
反対に、自己資金を多く入れると返済負担は軽くなりますが、自己資金に対する投資効率は下がることがあります。
そのため、IRRだけを高くすれば良いわけではありません。IRRは投資効率を見る指標ですが、同時に安全性も確認する必要があります。そこで重要になるのがDSCRです。
DSCRは返済余力を見るための指標
DSCRは、物件の収益に対して、ローン返済にどれくらい余裕があるかを見る指標です。
IRRが投資効率を見る指標だとすれば、DSCRは安全性を見る指標です。どれだけ収益性が高く見える物件でも、返済に余裕がなければ、空室や修繕が発生したときに資金繰りが苦しくなります。
DSCRはNOIを年間返済額で割って見る
DSCRは、物件が生み出す純収益が、年間返済額の何倍あるかを見る指標です。
考え方としては、NOIを年間返済額で割って確認します。NOIとは、家賃収入から空室損失や運営費などを差し引いた、物件の実質的な収益です。
DSCRが高いほど、返済に対する余裕があります。反対に、DSCRが低い物件は、少し空室が出たり、運営費が増えたりするだけで、返済が苦しくなる可能性があります。
不動産投資は長期で運営する事業なので、返済余力を確認することは非常に重要です。
DSCRは1.3以上を一つの目安にする
この記事内の事例では、DSCRは1.3以上が安全性を見る一つの目安として紹介されています。
DSCRが1.3以上あれば、物件の収益に対して返済に一定の余裕がある状態と考えやすくなります。一方、DSCRが1.25を下回るような場合は、経営上の余裕が少ない状態として注意が必要です。
もちろん、DSCRの基準も物件条件や投資家の資金状況によって変わります。ただし、数字が低い場合には、返済条件や自己資金の入れ方を見直す必要があります。
投資判断では、IRRだけでなくDSCRもセットで確認することが大切です。
DSCRが低い場合は自己資金や融資条件を見直す
DSCRが基準に届かない場合は、物件をすぐに諦めるだけでなく、条件を調整できるか確認します。
たとえば、自己資金を増やして借入額を減らす、借入期間を調整する、金利条件を確認する、といった方法があります。返済額を抑えることができれば、DSCRが改善する可能性があります。
ただし、自己資金を増やせばIRRが下がることもあります。つまり、安全性を高めると投資効率が下がる場合があるということです。
このバランスを見ながら判断することが、IRRとDSCRを使う意味です。
10年後の純資産増加額で投資結果を見る
不動産投資の最終的な判断では、10年後に純資産がどれだけ増えているかを見ることが重要です。
IRRやDSCRは大切な指標ですが、それだけでなく、実際に手元の資産がいくら増えるのかを確認することで、投資の結果がより分かりやすくなります。
純資産増加額は保有中の手残りと売却時の手残りで見る
純資産増加額を見るときは、保有中のキャッシュフローと売却時の手残りを合わせて考えます。
たとえば、10年間の税引き後キャッシュフローが積み上がり、さらに売却時にローン残債を差し引いて手残りが出る場合、その合計から最初に入れた自己資金を差し引くことで、純資産がどれだけ増えたかを確認できます。
この記事内の事例では、家賃収入による手残りと売却による手残りを合わせて、純資産が増える考え方を紹介しています。
大切なのは、単年度の収支だけでなく、出口まで含めた投資結果を見ることです。
ローン返済が進むことで純資産が積み上がる
不動産投資では、入居者からの家賃収入を使ってローン返済が進んでいきます。
ローン元金の返済が進むと、売却時に残るローン残債が減ります。物件価格が大きく下がらなければ、その差額が手残りになりやすくなります。
つまり、不動産投資では毎月のキャッシュフローだけでなく、ローン残債が減っていくことも資産形成の一部です。
この仕組みを理解しておくと、物件の良し悪しを目先の利回りだけで判断しにくくなります。
自己資金に対してどれだけ増えるかを確認する
10年後の純資産を見るときは、最初に入れた自己資金に対して、どれだけ資産が増えるかを確認します。
たとえば、自己資金を3,000万円入れた場合、10年後にそれがどれくらい増えているのかを見ることで、投資としての意味が見えやすくなります。
この記事内の事例では、自己資金に対してどれだけ純資産が増えるかをシミュレーションする考え方を紹介しています。
このように、物件価格や利回りだけでなく、自分の資金が10年後にどのような結果になるのかを確認することが、購入判断では重要です。
首都圏新築アパートの事例で見るIRR・DSCRの判断
ここでは、首都圏新築アパートの事例をもとに、IRR・DSCR・純資産増加額の見方を整理します。
事例を見ることで、指標をどのように使って購入判断するのかが分かりやすくなります。
表面利回り6.6%でも運営費を引いて見る
事例では、首都圏の新築アパートで、購入価格は約1.5億円、自己資金3,000万円、借入1.2億円という条件を想定しています。表面利回りは6.6%です。
ただし、表面利回りだけでは判断できません。空室損失や運営費を差し引いたうえで、実際に物件がどれくらい稼ぐのかを見る必要があります。
この事例では、NOIが10年平均で年間約740万円程度になる想定として整理しています。
このように、まずは表面利回りから一歩進めて、実質的な収益を見ることが大切です。
IRR 8.3%とDSCR 1.25をどう評価するか
この事例では、IRRは約8.3%となり、目安としている8%を上回っています。
投資効率という点では、一定の基準を満たしていると判断できます。一方で、DSCRは1.25となっており、安全性の目安である1.3を少し下回っています。
この結果から分かるのは、収益性は悪くないが、返済余力にはやや注意が必要ということです。
つまり、IRRだけ見れば合格でも、DSCRを見ると安全性の調整余地がある。このように、複数の指標を組み合わせて判断することが重要です。
自己資金を増やすなど条件調整も検討する
DSCRがやや低い場合は、条件調整を検討します。
この事例では、自己資金を追加することで安全性を高める考え方もあります。自己資金を増やせば借入額を抑えられるため、返済額が下がり、DSCRが改善する可能性があります。
ただし、自己資金を増やすとIRRが下がる場合もあります。
そのため、投資効率と安全性のバランスを見ながら、自分にとって納得できる条件を探ることが大切です。
IRR・DSCRを使うと物件判断の基準が明確になる
IRR・DSCR・純資産増加額を使うと、物件を感覚ではなく数字で比較しやすくなります。
不動産投資では、良さそうに見える物件ほど冷静に数字で確認する必要があります。自分の判断基準を持っていれば、買うべきか見送るべきかを迷いにくくなります。
自分の合格基準を決めておく
投資判断で大切なのは、自分の合格基準を先に決めておくことです。
たとえば、IRRは8%以上を目安にする、DSCRは1.3以上を目安にする、といった基準を持っておくと、物件ごとに判断がぶれにくくなります。
もちろん、すべての物件が基準をきれいに満たすわけではありません。だからこそ、どの指標を重視するのか、どこまでなら許容できるのかを事前に考えておく必要があります。
基準がないまま物件を見ると、営業担当者の説明や表面利回りに流されやすくなります。
複数の物件で指標を比較してみる
IRRやDSCRは、一度聞いただけで使いこなせるものではありません。
複数の物件でシミュレーションを行い、IRR・DSCR・純資産増加額を比較することで、数字の感覚が身につきやすくなります。最初から本命物件だけで判断するのではなく、練習としてさまざまな物件を分析してみることも大切です。
物件ごとに数値を並べてみると、表面利回りだけでは見えなかった違いが分かります。投資効率は高いが返済余力が弱い物件、返済余力はあるが投資効率が低い物件など、判断のポイントが整理しやすくなります。
短時間で購入判断の一次チェックを行う方法については、以下の記事で詳しく解説しています。
数字を説明できると判断の精度も上がる
IRR・DSCR・純資産増加額を理解しておくと、自分の購入判断を説明しやすくなります。
なぜその物件を検討するのか、どこにリスクがあるのか、どの条件を調整すべきなのかを自分の言葉で説明できれば、判断のブレを減らせます。
また、金融機関へ相談するときにも、物件の収益性や返済余力を自分の言葉で説明できることは役立ちます。業者から渡された資料をそのまま出すだけでなく、自分でも数字を理解していることが大切です。
融資相談のタイミングや進め方については、以下の記事で整理しています。
まとめ
不動産投資では、表面利回りや目先のキャッシュフローだけで購入判断をするのは危険です。
投資として本当に見るべきなのは、10年後に純資産がどれだけ増えているかです。そのためには、保有中のキャッシュフロー、売却時の手残り、ローン残債、自己資金に対する投資効率を総合的に確認する必要があります。
IRRは投資効率を見る指標、DSCRは返済余力を見る指標です。この記事内の事例では、IRR 8%以上、DSCR 1.3以上を一つの目安として紹介しました。
ただし、これらは絶対的な基準ではありません。物件条件、資金状況、リスク許容度によって判断は変わります。大切なのは、営業資料の数字をそのまま信じるのではなく、自分でもシミュレーションを行い、数字で納得してから判断することです。
自分の判断が合っているか不安な方や、検討中の物件をIRR・DSCR・10年後の純資産で確認したい方は、専門家に相談するのも一つの方法です。第三者の視点を入れることで、投資効率と安全性の両面から、より冷静に購入判断をしやすくなります。
宅地建物取引士、賃貸不動産経営管理士、CPM®(米国不動産経営管理士)、第一級海上特殊無線技士、毛筆八段
海上保安庁、賃貸仲介営業を経て、賃貸管理会社である株式会社アートアベニューに入社。大家さんの安心経営を叶えるべく、賃貸住宅の企画・運営をお手伝いしています。
