第125回 タウンマネジメントにおけるブランディング

地域が魅力を持ち、若い世代呼び込む

やりがいある仕事と家庭両立で地方生活を後押し

前回の連載で、人口減は日本の喫緊の課題であり、その対策としてエリアの活性化、すなわちタウンマネジメントがある。

そして、タウンマネジメントは不動産業者こそが主導的に行うべきことだ、と書いた。

今回は、具体的に何をなすべきかと述べてみたい。

 

エリアを活性化するとは、結果的にそのエリアの人口減少を抑えることである。

人口減少を抑えるためには、やはり子供を産む世代、つまり20歳代〜30歳代の人たちをそのエリアに留まらせるか、他のエリアから呼び込むことが必要になってくる。

そして、そこで子供を産んでもらうのだ。そのためには、まずその人達の雇用が確保される必要があるだろう。

働いて家族を養っていけなければそこには定住できない。そして、子供を産んで育てる環境が充実している必要がある。

 

重要なポイントとしては、①自分が働きたいと思う仕事があるか(雇用)、②適当な住宅はあるか(住居)、③子供がいれば学校の質・保育園の有無(教育)、④自分を取り巻く環境・人間関係(周囲の環境)、の4つが主なものであろう。

これら4つ、「雇用」、「住居」、「教育」、「環境の整備」がエリアのベーシックな課題となる。

 

エリアに戻ってきたり、やってきたりする理由の一般論として、特に都会と比べて地方は、いろいろなメリットがある。

自分の生まれ故郷を離れて都会の大学等に進学し、そのまま就職する若者が多いが、このまま一生都会に居ていいのだろうかと考えている人は確実に存在する。

物価が安く、住居費が安ければ実質所得の増加と言えるだろう。

保育園が確保できないなどの障害が少なければ子育てがしやすいし、近所に親や親戚がいればなおのこと、ちょっと子供を預けるというようなこともできる。

共働きもしやすいだろうから、ダブルインカムも可能だ。

 

特に都会での満員電車での通勤にストレスを感じる人は多い。

地方では職住接近が可能で、そのようなストレスは軽減できる。地域社会との交流もワークライフバランスを実現することに繋がるし、人間らしい生活を感じることができる。

一般的に年収は下がるだろうが、自分のスキルを必要とする組織があれば、そこでの仕事はやりがいのあるものになる。

見た目の年収は下がっても、生活レベルにおいて、その質が極端に下がるわけでもなく、愛する家族と幸せに暮らすことができ、やりがいのある、また好きな仕事ができるのなら、地方で生活したいと思う人は意外に多いのではないか。

ネット社会となり、テレワークも可能な時代となったことも地方暮らしを後押しするのではないだろうか。

 

もちろん、地方だけの問題ではなく、都会の中でもエリアによって人気度の差は生じてゆく。

そのエリアの独特の優位性を持たなければ人は減っていくことになる。

 

そして、エリアを活性化するために肝心なことだが、そのエリアに自分が住むことの何らかの必然が必要だ。

それは個人的な理由もあるだろう。たとえば、故郷への想いとか親の介護というふうに。

しかし、大事なことはそのエリアに魅力を感じて、そこに住みたいと思わせるものがあることだ。

そして、その魅力的なエリアに何らかの形で自分は関わっている、自分が貢献しているという実感があるとき、そのエリアに拘ることになるだろう。

 

人口を増やすためには、個人個人の、そのようなそのエリアに住み続けるなんらかの必然、その必然を演出することが「タウンマネジメント」の柱ではないか。

▲図表1

 

問題はそれらの人にとって魅力あるエリアであるかということだ。

そのエリアの「ブランディング」を進めていく必要がある。ブランド力のあるエリアである必要がある。

ブランディングのために、「図表1」の9つのアイデアが考えられる。

 

1. デザインの重要性に関してだが、現代では、ダニエル・ピンクの「ハイ・コンセプト(2006年)」で述べられているように、AI時代を迎えて「直感力」を鍛えよ、「論理」も大事だが「感性」が重要だとする主張が増えている。

現代はまさに「感性」の時代であり、ダニエル・ピンクがいうように「デザイン」の感性が問われるのはいうまでもない。

時代は「機能の差別化」より「情緒の差別化」が重要視されるのだ。

建物内部も外部も、街の景観も大事にしなくてはいけない。

また、ヨーロッパのようにもっと日本にも皆が集まる「広場」が欲しいところだ。

 

2. アートは若者を惹き付ける。クリエイティブな街を目指すべできはないか。

アートが放つエネルギーを馬鹿にしてはいけない。

その街で芸術家の卵たちの創作活動を支援してはどうか。

また、その街の歴史や文化、オリジナリティというものを大事にしたい。他と違うものを感じたいのだ。

そのエリア独特の文化、また商業店舗などはナショナルチェーンに頼らないオリジナルの店舗の創生が望ましい。

 

3. 「モノよりコト」、つまり「モノ消費からコト消費」の時代と言われる。

オリジナルなモノもいいが、楽しい、印象に残る体験ができる街を作ってはどうか。

数々のイベントもそのエリアのブランディングのためにある。

 

4. 観光とのコラボにもそれは関係するが、そのエリアではどれだけの楽しい体験ができるかが、内外の観光客を呼ぶキーになるだろう。

数年前の数百万人から年間の海外からの観光客は約3,000万人を数える(2018年)ようになり、観光立国としての日本が注目されている。

 

デービット・アトキンソン氏はその著書「新・観光立国論」のなかで、「観光大国」として高い評価をされている国は、下記の4つの条件を満たしているという。

①気候、②自然、③文化、④食事がそれで、これらの4つを日本は充分に満たしているという。

政府は2030年には6,000万人の外国人観光客を呼ぼうという目標を立てた。

エリアの活性化と観光との融合は大事なファクターだ。

 

5. アトキンソン氏も指摘しているように、日本の食文化は世界に誇れるものである。

そのエリアでしか食べられないようなものを大いに促進すべきではないか。

 

6. 都会にはない大いなる自然に人々は惹かれる。自然環境を保護することはエリアにとってとても大事なことだ。

日本は自然にも恵まれている国だ。

 

7. 都市計画を再構築する必要がある。

コンパクトシティ構想等もあるが、今後のエリアごとの用途戦略とインフラ構築は、喫緊の課題であろう。

 

8. エリアの人々とのコミュティの形成を心がけなければいけない。

人々とのコミュニティがあるから、そのエリアに愛着がわくのである。

 

9. 育児支援は、エリアの政策としては最も重要なもののひとつだ。

兵庫県明石市は数々の育児支援制度のおかげで0〜4歳児が増加しているという。

 

ブランディングのための9つの施策を通して、人がエリアに集まる仕組みを作る、その結果、雇用が生まれやりがいのある安定した生活が出来るようになるのではないか。

藤澤 雅義(Mark藤澤)

アートアベニューの代表取締役であると同時に、全国の賃貸管理会社を支援するコンサル企業:オーナーズエージェント株式会社の代表取締役も務める。

しかし、本人は「社長!」と呼ばれるのがあまり好きでないとのことで、社内での呼ばれ方は「マーク」または「マークさん」。

あたらしいものが好きで、良いと思ったものは積極的にどんどん取り入れる一方、日本の伝統に基づくものも大好きで、落語(特に立川志の輔一門)や相撲(特に時津風部屋)を応援している。