第131回 管理を離すとき
管理会社と家主は対等の立場
適切な管理を行うために割り切る判断も大切
今回は、ちょっと言いづらいことを書きます。
この全国賃貸新聞は業界関係の方々だけでなく、不動産オーナーの方も読んでいると思うので、今回のテーマを書くのはちょっと迷ったのだが、管理会社の方にとっては大事なことなので書くことにした。
弊社は、この夏、いままでで最高の稼働率を達成した。東京23区で98.4%になったのだ。
逆の空室率という観点では1.6%ということになる。
空室率2.0%が空室期間で約1ヶ月分に相当するので、1.6%ということは、平均約24日間の空室期間しかないということになる。
いままで弊社は96%~97%程度で何年も推移していたので、8月末で98.4%になり、その後この11月になるまで一応98%程度は維持しているというのは弊社としてはとても意義のあることなのだ。
高稼働率になった理由はいろいろあるが、たとえば最近市況が悪くないということもあるが、一番の理由は、ここ2年くらいで実は採算の悪い物件を1,000戸以上手放したことが大きい(現在の総管理戸数は6,718戸)。管理を離したのだ。
「お客様は神様です」と言われるような風潮のある日本で、お客さんをこちらから断るという行為は非難の対象かもしれない。
しかし、会社経営の観点からみて私は決断したのだ。
物件ごとの収支が悪い物件の各オーナーに対して、管理手数料の値上げや、また仲介業者に支払うAD(Advertising fees / 広告料 の略語で業界用語)をいままで弊社が負担していたものを、不動産オーナーに負担をお願いしたりした。
その結果、そのお願いを聞き入れてもらえなかった物件に関しては、管理をお断りするということをしたのだ。
いろいろな経緯で管理受託契約をしてきたわけだが、その中で弊社が無理をしてしまったということもあるし、どうしても断れない状況にもあった物件もある。
弊社の責任も当然あるのだが、何年もおつきあいをしてきて、これ以上管理を続けるのは会社として問題があると判断した。
思い切った決断ではあったが、クライアントと会社との関係はけして「上下関係」ではないと思うのだ。
ご縁があったクライアントから「適正なフィーをいただいて、それに見合うサービスを提供する」という意味においては、「50:50/フィフティ・フィフティ」ではないだろうか。
お客様には無理をしてでもサービスをし続けなければならない、ということではない。会社は利益を追求するところだ。
また、表1「管理を離したほうがいい場合とは」にまとめてみたが、「収支が悪い、儲からない」だけでなく、管理を離しても仕方がないと思われるものもある。
③「オーナーの支払いが悪い」。
なかなかリフォーム代等をお支払いいただけないのだ。お金を貸して欲しいと言われたことも複数回ある。
また、④「空室対策提案にまったく同意して」もらえないこともある。
お金がないわけではなくても、このままの状態でなんとか良い稼働率を維持してほしい、お金を使いたくないというのだ。
稼働率が悪い物件は、それなりに理由がある。
私は、以前よりオーナーセミナー等でも、「稼働率96%を目指しましょう」と言っている。それは全国どこででもだ。
つまり、平均空室期間を2ヶ月以内にしましょう、ということだ。空室期間3ヶ月目に入ってはだめですよ、といつも言っている。
兎に角、賃貸経営は「稼働させたほうが得」だ。空室にしておくと年間の収益性が落ちる。
なかなか決まらないのなら、「家賃を下げてでも決める」ことが先決だし、家賃を下げるのが嫌なら、「物件の価値を上げる」方法を取らなくてはいけない。
それは、エアコンがなければ付けるべきだし、インターネット無料にするとか、宅配ロッカーやモニター付きインターホンを設置する。
または、エントランスまわりとか外観・外構の見栄えをよくすることも大きな効果がある。
そもそも、決まらない物件はいろいろな欠点があることが多く、それをひとつひとつつぶしていくだけで、普通の物件になってゆく。
これらの空室対策提案を、まったく受け付けてもらえないクライアントもいるのだ。
それで、うちの広告コストやマンパワーを過剰に使ってなんとか決めてくれと言われても、正直にいって、あなたの物件だけ特別扱いにするわけにはいきません、となる。
それでも決めるのが「管理会社の腕」だろう、と言われるのだが、「腕」の問題ではなく、「コスト」の問題なのだ。
また、⑤「独特な要求が多い」こともある。
業務フローの中で、ひと手間ふた手間増えてしまうリクエストを要求されるクライアントもいる。
意外にこれがコスト負担が大きくなってしまうことがある。
⑥「非倫理的なことをさせようとする」クライアントもいる。
たとえば、入居者退去時に、室内内装リフォーム代は全部入居者に払わせてくれ、自分は負担しないという方もいた。
国交省のガイドラインも法的に問題があることも充分にわかった上で言ってくる。
スタッフの立場では、クライアントに逆らうことはできないので、渋々命令に従うようなことが起きてしまう。
⑦「貢献を認めない」方もいる。
うちのスタッフが失敗してしまったことは、しっかり突いてくるのだが、成功したことにはまったく触れないのだ。
これでは、⑧「スタッフの士気が下がるし、ストレスに感じる」のだ。
ストレスに感じながらでも、お金をいただいているのだから、我慢すべきだという論もあるだろう。これも私は会社なのだから収益性とのバランスだと思う。
これもちょっとタブーかもしれないが、どれだけお金を落としていただいているかにもよるのではないか。
JALもANAもどれだけお金を落としてくれているかによって、会員ステイタスを何段階かにわけて、サービスを変えているではないか。
私はJAL(JTA)をかなり使っているので(ダイヤモンド会員の中でも非公開のメタル会員)、ターンテーブルでスーツケースが出てくるのはほぼ一番、チケットも取りやすいし、入場、搭乗も優先されるのだ。きけば、「ビジネスクラス」という存在も導入当時は批判されたようだ。平等でない、というのだ。
これら「管理を離す」ことについて、以前から私が思っていたことを書いた。
私は、CPM(認定不動産管理士)資格を排出するIREM(全米不動産管理協会/本部シカゴ)において、Faculty(認定講師)をしているが、最近、新しい授業(BDM603)を受け持った。このテキストには、明確に「管理を離す時」というテーマがあった。感動した。
藤澤 雅義(Mark藤澤)
アートアベニューの代表取締役であると同時に、全国の賃貸管理会社を支援するコンサル企業:オーナーズエージェント株式会社の代表取締役も務める。
しかし、本人は「社長!」と呼ばれるのがあまり好きでないとのことで、社内での呼ばれ方は「マーク」または「マークさん」。
あたらしいものが好きで、良いと思ったものは積極的にどんどん取り入れる一方、日本の伝統に基づくものも大好きで、落語(特に立川志の輔一門)や相撲(特に時津風部屋)を応援している。