第128回 少子高齢化を救う観光産業

訪日外国人4000万人で8兆円目標

魅力はある無しではなく、自ら作り出すもの

著書「新・観光立国論」(2015年)がベストセラーとなり、この本で2015年に「山本七平賞」を、2016年に「不動産協会賞」を受賞しているデービッド・アトキンソン氏を6月末に宮古島にお招きして講演をしていただいた。

前日には、弊社で運営しているVillaにお泊りいただき、宮古島市長他要職の方々にも同席いただいて会食をし、いろいろとお話できてなんとも楽しい2日間であった。

氏はソロモン・ブラザース勤務時代のバブル崩壊時(氏がまだ20歳代のとき!)、まだ誰もそんな額と言っていなかった頃、不良債権が20兆円あるとレポート(最終的には100兆円超とレポート)して大変話題になった。

主要銀行は4行でいいと論じ、金融業界からは反発を受けたが、結果は氏のいう通りになった。「伝説のアナリスト」と言われる所以である。

マネーゲームに疲れて42歳でゴールドマン・サックスを辞めてからは、京都に滞在して茶道などに没頭しながら「隠遁生活」を送っていたのだが、現在は、創業300年以上という、国宝・文化財を保全修復する「小西美術工藝社」の代表取締役を務めている。

世界にも稀な「勤勉で仕事に誇りを持つ労働者」がいる日本に驚きつつも、素晴らしい文化財をきちんと守らない日本に憤り、日本の会社の効率の悪さ、経営者の「サイエンス」のなさを嘆いている。

そして、観光産業が日本を救うと言っているのだ。

30年以上も日本で暮らし、日本の素晴らしさとダメな部分を熟知している氏はイギリス人ながら、今の日本にはなくてはならない人物だと私は思っている。

2014年から立て続けに9冊の本を上梓し、近々新刊も出るとのことだが、近年は日本経済の処方箋を語ることが多く、マスコミにも度々登場する。

また安倍首相、菅官房長官とも会食する間柄で「安倍首相の知恵袋」などと巷言われている。

▲図表①

 

講演では、まず人口減の日本の現状認識から述べられた。図1は、日本の人口予測だ。

人口は2015年をベースとして、30年後に23%減る(40年後は、31%減)。

そしてその内訳だが、生産年齢人口(15歳〜64歳)は35%減る。逆に65歳以上の高齢者は11%増だ。

そして、現在1人の高齢者を2.26人の生産年齢人口で支えていることになるが、30年後には、1.33人の生産年齢人口で1人の高齢者を支えなければならなくなるのだ。これは何を意味するか。

 

そもそも、経済の規模(GDP)は「人間の数✕一人あたりの生産性」で決まる。

日本は規模としては世界経済第3位というが、1億2,700万人も人口があるおかげであって、「一人あたりの生産性」は実は世界第26位なのだ。

先進国で1億人を超える人口を持っているのは、アメリカと日本だけだ。

要するに人口が多いから規模が大きくなっているだけで、日本人の勤勉性や技術力が寄与していないわけではないが、それは二次的なもので、人口が多いことが大きいのだ。

 

日本のすごいところは、1億人の人口を有しながら一定の生産性を維持しているから、少し前まで世界第二位の経済大国になった。

人口減というかなり厳しい現実を前にして、大事なことは「一人あたりの生産性を上げる」しかないのだ。

要するにもっと儲けなければいけないのだ。

(藤澤:宮古島でも、これ以上開発はいらない、自然を壊すな、宮古島はこのままでいい。外国人にも来てもらいたくない、という人が少なからずいる。ではどうしろというのか?

このままでいくと、宮古島では、いまはバブルである意味活況だが、日本全体のスピードより早く、半分の期間で少子高齢化の波がやってくる(図2)。

約15年後の2035年後には、生産年齢人口1.36人で1人の高齢者を支えないといけない時代がやってくるのだ)

▲図表②

 

氏曰く、そうなると、自治体の社会保障費が削られることになる。

介護はどうするのか、自分の両親が入院して手術をすれば助かるのに、それが出来ず亡くなってしまうとかいうことが起こるのだ。

 

よって、人口減少は深刻な問題であり、「面白い議論ですね」とかいうものではない。

必ずしも経済成長しなくてもいいではないかという人もいる。それは違う。文字通り「死活問題」だ。

外国人が面倒だ、邪魔だなどというのは短略的であり、大変無責任な意見だと。

そこで、経済を縮小させないためには、輸出をしなくてはいけない。

 

日本は、例によって輸出総額では世界第4位だが、1人あたりでは世界113位だ。

GDPに占める輸出額の割合だが、日本は16.1%でとても低い。

オランダは82.4%、ドイツは46.1%、韓国は42.2%、カナダは31.0%、イタリアは29.8%、フランスは29.3%、イギリスは28.3%である。

また輸出比率と生産性にはあきらかに相関関係があり、輸出が多いと生産性が上がる。

そこで「観光産業」は実は、「輸出産業」である。いなくなってしまう日本人の代わりに外国人に日本にきて消費してもらえばいいのだ。

 

外国人は滞在するが、移住するわけではない。よって社会保障費はいらないというメリットもある。

観光産業は世界規模でいえばGDPの10%を占める、また全世界の雇用の10%を占める。

いま世界の人口72億のうち、13億3,000万人が海外旅行をしている。

そして、これは2030年までに18億人になると言われている。4人に1人が旅行するのだ。

 

日本は2012年には訪日外国人の数が800万人だったが、2018年は3,200万人になった。2

020年には4,000万人、2030年には6,000万人が政府の目標だが、それぞれ、収入目標を掲げている。

4,000万人で8兆円。6,000万人で15兆円だ。

 

4,000万人というのはあくまで手段であって、外国人にお金を落としてもらうという8兆円が目標である。

これが大事だ。国はこのようにしている。

2017年、日本は、観光収入世界10位になった。

宮古島を考える時に、国と同じように、宮古島の経済のためにいくら欲しくて、そのために単価をどうするのかを決めて、その結果として何人に来てもらって、さらにその結果としてどの国から何人来てもらって、いくら使ってもらって、どこに行って、何日滞在して、毎日だいたいどのくらい、どういうものにお金を使ってもらうのか何を食べるのかどこに寝るのかと、全部決めてやっていくのが本来の観光戦略なのだ。

 

そして、人数は国の仕事だが、収入は民間の仕事だ。4,000万人は達成できるが、8兆円は実は達成できない。

言いにくいが、民間の力が足らない。よく、各地に行くと「ここの魅力はなんですか?」と聞かれる。魅力は作るものだ。

観光の魅力はある無しではない。自ら作るものだ。

そこに自然のままのビーチがあっても、着替えるところも、シャワーもカフェも無ければ、人は集まらない。

首里城があるから、あの山に登る。高野山があるからそこに人が訪れる。ディズニーランドがあるから浦安に行く。

有名観光地のほとんどは人間が作ったもの、「整備」したものだ。

そして、良いものがあれば、発信しなくても今はSNSで自然に拡散してくれる。問題は観光コンテンツがあるかが問題だ。

 

宮古島には無限の可能性がある。皆さんの努力しだい。

出来る、出来ないという問題ではない。やるかやらないかだ。

 

とても内容のある感動の講演であった。
また2日間の宮古島滞在で氏と短い時間ではあったが、氏のフレンドリーさと聡明さに触れて大いに感動し、刺激を受けた。

藤澤 雅義(Mark藤澤)

アートアベニューの代表取締役であると同時に、全国の賃貸管理会社を支援するコンサル企業:オーナーズエージェント株式会社の代表取締役も務める。

しかし、本人は「社長!」と呼ばれるのがあまり好きでないとのことで、社内での呼ばれ方は「マーク」または「マークさん」。

あたらしいものが好きで、良いと思ったものは積極的にどんどん取り入れる一方、日本の伝統に基づくものも大好きで、落語(特に立川志の輔一門)や相撲(特に時津風部屋)を応援している。